目加田さくを氏による『平仲物語』現代語訳

もう一度ゆっくり読んで欲しいという声が多数ありましたので、こちらにアップしておきます。

  • 第二十三段

この同じ男の所に、国経の大納言の所から、ちょっとしたことを仰せつけられたので、男が返事を申し上げるというので、美しい菊の花を折ってそれに手紙を、まあつけたものだよ。それで、いったいその手紙に男はどんなことを書いていたのだろう、折り返しまた、(国経大納言は)こう仰せられた。
 三代に歴仕して年を取った私は、杖をつきながらこの美しい花の生えていたお庭、お宅のお庭を見に参りたいものですな。
と書いてあったので、返事、
 私どもの庭へ(通ずる道に)貴方様がたまたま杖をお引きあそばそうならば、浅茅が原みたいな拙宅の小庭に咲いております菊が、光栄に一段と美しく輝くことでございましょう。(どうぞお越し下さいませ。)

  • 第三十九段

また、この男は、通う女と同じ家に、たいそうあか抜けた女どもでいるのが、初めはさして綺麗だとも感じなかったが、大変美しく成人したので、男は心を留めて、「何かいい機会はないか。いいチャンスに話しかけよう」と思っていると、ある時、若い菰のあるのを、この女がもてあそんでいたのを見て、
 沼水に、みるみるうちに伸びる菰ではないが、あなたはみるみるうちにメキメキ美しくなりましたねえ。
女の返歌、
 刈られる菰がみるみるうちに人に飽かれて嫌われる。この浅い浅香沼に生えているので。薄情なあなたなどの出入りする家に私は成人していますので、すぐにキット飽かれて嫌われましょうよ。
とはまあ、(少女のくせに)言うことか、じっさい。

ちゃんと答を書いて下さった人も何人かいましたが、原文に傍線を引いた部分は「草子地」ですね。書き手(というか、この歌物語の語り手)がつい自分の気持ちを差し挟んでしまったという形。
第三十九段の草子地の意味がわかりにくいという感想がありましたが、ここでは、女の返歌が男をぴしゃっとやりこめる内容になっているので、「まだ年若いというのに、このお嬢さんはこまっしゃくれた一人前の口をきくことだよ」とびっくりしているニュアンスを読みとるのが正解。こんなコムスメにまで歌で言い負かされてしまうとは、自称プレイボーイも形無しですね(笑)。